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未来のビジョン

2030年の憂鬱

 2030年4月、55歳になった私は新しい年度を迎えるタイミングで、新しい職場に向かっている。  昨年末に、大学卒業からずっと勤めてきた会社が中国企業に買収され、職場環境は激変し、多くの日本人の同僚が退職した。まずまずの退職金をもらえるので、希望退職制度に応じ、同業他社に転職することにした。  それなりに有利な条件の希望退職制度が用意されたのは、顧客リストと知的財産が買収の目的で、日本人の従業員はそれほど必要としていなかったからだろう。同僚の何人かは、親会社のある本社がある上海に渡ったが、この歳から海外で生活するのはなかなか大変だと思う。  5年前の2025年に、厚生年金の積立金はついにゼロになり、年金給付額の引き下げと保険料のアップを伴う大幅な改正案が施行された。最近読んだ本によると、老後に5000万円の自己資産を作る必要性があるらしいが、貯金から住宅ローンを差し引くと、ほぼ資産はゼロだから、どうしてよいかわからない。

 新しい職での給与は、一応年収1000万円は超えているが、ここ10年以上続くインフレで生活は厳しい。消費税は25%と世界最高レベルにまで引き上げられているし、円安で食糧やエネルギーの値段が上がっているので大変だ。  特にガソリンは1リットル300円もするので、自家用車は持たずにどうしても必要な時だけレンタカーを利用している。電気自動車もそれなりに普及してきたがまだまだ価格は高いし、その電気代も火力発電中心の日本ではとても高い。  新聞によれば、原油も発電にしようするLNGも、中国と比較して倍以上の価格でしか売ってもらえないようだ。3年前に米国を追い抜いて、世界最大の経済大国となり、日本の5倍以上のGDPを誇る中国より不利な条件を推しつけられるのは仕方がないのかもしれない。  日本の経済規模(GDP)は、2020年代に入ってインド、ブラジル、ロシアに逆転され世界第6位となっているらしい。すぐ後ろには、インドネシアとメキシコが迫っていて、今後数年以内に逆転されてしまうようだ。

 先ほども言ったように、この歳になってもほとんど資産は築けていない。年金や健康保険の保険料は上がるばかりだし、消費税もバカ高い。おまけに、10年前から東大・京大をはじめ国公立大学が国際競争力を維持するために、英語のカリキュラムを前面に導入したせいで、息子の教育費も英会話スクールを含めてふくらんでいる。  自分たちの世代では考えられないが、国内の有名大学でも英語カリキュラムと日本語カリキュラムの卒業生では全く評価が違うらしいので、高校生の息子も通常の受験勉強に加えて、ネイティブの講師に英会話を習っている。  そもそも、多くの国内企業も外資の傘下に入っているので、息子には何としてでも有名校の英語カリキュラムに合格してもらって、人気の海外企業への就職をしてほしい。学部から欧米やアジアの有名大学に留学する優秀な子息も増えてきているようだが、うちの息子のレベルでは難しいだろう。  蛙の子は蛙。高望みしてもかわいそうだ。

 それにしても、20年前はこんな状況に追い込まれるなんて想像もしなかった。50代半ばになれば引退も見えてきて、それなりに資産もたまっていると考えていたのに・・・・・もっと何か工夫するべきだったのか。  まぁ、そんなことをいまさら悔いても仕方がない。新しい就職先はインドの会社だ。上司は日本語がしゃべれないインド人らしい。息子と一緒に英語を勉強して、なんとかあと15年、年金がもらえるまでこの会社で頑張ろう。その後のことは、70歳で引退してから考えるしかない。

   インフレでもあわてない!これからのお金の殖やし方 明日香出版 岡村 聡 著 より